大吉は凶に還る

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從來漢土儒林の人を觀るに

26 Sep 13 - 21:59

 
 從來漢土儒林の人を觀るに、漢の楊雄程其人物學問に對する評價の一致せぬものはない。一方に於て、孟子以後の第一人と尊崇さるゝかと思へば、また他方では利祿を貪り、權勢に阿り、全く道義羞惡の念なき、人格陋劣のしれもので、其學術亦た淺薄にして見るに足らずと、一概に罵詈をあびせかけられて居る。元來何れの國、何れの時代でも、また帝王政治家學者たるとに論なく、其生時には毀譽相半したものが、どうかの調子で、其人既に沒し、年代を去ること遠くなればなる程、惡い方面が全く忘却されて、善い方面計遺つて、其人を譽る一方となるかと思へば、又た反對に善い方面が年を逐うて忘却され、惡い方面が殘り、獨り殘るのみか、何んでも惡いことゝなると、其人の記臆の上に積重ねらるゝものがある。私が今申述べんとする楊雄の如きは、葢し後者に屬すといふべきである。漢書の中に雄が爲めに傳を立てた班固の考は、如何であつたかといふに、班固とても決して雄を以て完人とした譯ではない。其傳を讀んでゆくと、露骨に雄の惡口をきいては居らぬが、其中に微辭があつて、或點に於て不滿足であつたことは首肯せらるゝが、これと同時に班固とても、雄に對し十分に大儒としての尊敬を拂つて居たことは明である。其後、漢魏から唐までは、どちらかといへば、雄を譽むるものゝ方が多かつた。殊に韓愈の如きは、孟子の事を述べた後に、『晩得楊雄書。益尊信孟氏。因雄書而孟氏益尊。則雄者亦聖人之徒歟。』といひ『孟氏醇乎醇者也。荀與楊大醇而小疵。』とまで推稱して居る(讀荀子)。其徒張籍も亦た韓愈に與へた書中に、『執事聰明。文章與孟軻楊雄相若。』とか、『後軻之世。發明其學者。楊雄之徒。咸自作書。』などいつて、孟子と並稱して居る(韓文十四張籍遺公第一二書)。柳宗元は、韓愈程には尊ばなかつた樣にも見ゆるが、それでも、法言の注までして居る所から考ふると之を輕視せなかつた事は分る。
 
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