大吉は凶に還る
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![]() ![]() 忠直卿は上ずって31 Dec 13 - 01:05 忠直卿は上ずって、言葉の末が震えた。左太夫は色を変えた。左太夫の後に控えている小野田右近も、左太夫と同じく色を変えた。 が、見物席にいる家中の者は、忠直卿の心のうちを解するに苦しんだ。殿御狂気と怖気をふるうものが多かった。忠直卿は、これまでは癇癖こそあったが、平常、至極闊達であり、やや粗暴のきらいこそあったが、非道無残な振舞いは寸毫もなかったので、今日の忠直卿の振舞いを見て、家中の者が色を変じたのも無理ではなかった。 が、忠直卿が今日真槍を手にしたのは、左太夫、右近に対する消し難い憎しみから出たとはいえ、一つには自分の正真の腕前を知りたいという希望もあった。真槍で立ち向うならば、彼らも無下に負けはしまい、秘術を尽くして立ち向うに違いない。さすれば自分の真の力量も分かる。もしそのために、自分が手を負うことがあっても、偽りの勝利に狂喜しているよりも、どれほど気持がよいか知れぬと、心のうちで思った。 「それ! 真槍の用意いたせ」と、忠直卿が命ずると、かねて用意してあったのだろう、小姓が二人、各々一本の大身の槍を重たそうにもたげて、忠直卿主従の間に持ち出した。 「それ! 左太夫用意せい!」といいながら、忠直卿は手馴れた三間柄の長槍の穂鞘を払った。金町 塾 |
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