大吉は凶に還る
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![]() ![]() 槍鍛冶の名手31 Dec 13 - 01:07 槍鍛冶の名手、備後貞包の鍛えた七寸に近い鋒先から迸る殺気が、一座の人々の心を冷たく圧した。 今まで、じっとして主君忠直の振舞いを看過していた国老の本多土佐は、主君が鋒先を払われるや否や突如として忠直卿の御前に出でた。 「殿! お気が狂わせられたか。大切の御身をもって、みだりに剣戟を弄ばれ家臣の者を傷つけられては、公儀に聞えても容易ならぬ儀でござる。平にお止り下されい」と、老眼をしばたたきながら、必死になって申し上げた。 「爺か! 止めだて無用じゃ。今日の真槍の仕合は、忠直六十七万石の家国に易えてもと、思い立った一儀じゃ。止めだて一切無用じゃ」と、忠直卿は凜然といい放った。そこには秋霜のごとく犯しがたき威厳が伴った。こうした場合、これまでも忠直卿の意志は絶対のものであった。土佐は口を緘んだまま、悄然として引き退いた。 左太夫は、もう先刻から十分に覚悟をしていた。昨夜の立話が殿のお耳に入ったための御成敗かと思えば、彼にはなんとも文句のいいようはなかった。それは家来として当然受くべき成敗であった。それを、かかる真槍仕合にかこつけての成敗かと思えば、彼はそこに忠直卿の好意をさえ感ずるように思った。彼は主君の真槍に貫かれて潔く死にたいと思った。 「左太夫、いかにも真槍をもって、お相手をいたしまする」と、思い切っていった。見物席に左太夫の不遜に対する叱責の声が洩れた。忠直卿は苦笑した。 「それでこそ、忠直の家臣じゃ。主と思うな。隙があれば、遠慮いたさず突け!」 こういいながら、忠直卿は槍を扱いて二、三間後へ退りながら、位を取られた。 左太夫も、真槍の鞘を払い、 「御免!」と叫びながら主君に立ち向った。 足立区 家庭教師 |
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